漫画史に残る不朽の名作「鋼の錬金術師」(通称「ハガレン」)。その物語を彩る敵役として、強烈なインパクトを残したのが七つの大罪を冠する人造人間「ホムンクルス」たちです。中でも、圧倒的な巨躯と「怠惰」の名を持つホムンクルス「スロウス」は、その独特なキャラクター性から多くのファンの記憶に深く刻まれています。
「スロウスってどんなキャラクターだったっけ?」「原作とアニメで設定が違うって本当?」「最速なのに怠惰ってどういうこと?」
この記事では、そんなファンの皆さんが抱く疑問に答えるため、ホムンクルス「スロウス」のキャラクター像、原作と2つのアニメシリーズでの設定の違い、そして彼の持つ驚くべき能力や物語における役割、印象的な最期まで、あらゆる角度から徹底的に掘り下げて解説していきます。
ハガレンのスロウスとは?基本情報と特徴
スロウスは、物語の黒幕である「お父様」によって生み出されたホムンクルスの一人です。その名の通り「怠惰(Sloth)」の罪を体現しており、ウロボロスの紋章は右肩の後ろに刻まれています。
- 外見: 260cmを超える圧倒的な巨躯と、強靭な筋肉質の肉体が特徴。顔の右半分はホムンクルス特有の模様で覆われ、長く伸び放題の髪がその「怠惰」さを物語っています。
- 口癖: 性格は極度の面倒くさがり屋で、「めんどくせぇ」が口癖。思考や動きも普段は緩慢ですが、一度命令を受けると驚異的な力を発揮します。
【重要】原作・FA版と旧アニメ(2003年版)での設定の大きな違い
「ハガレン」のスロウスを語る上で最も重要なのが、原作漫画およびそれを忠実にアニメ化した2009年版アニメ(通称:FA)と、2003年に放送されたアニメオリジナル展開を含む旧アニメ版とで、その設定が全く異なるという点です。
項目 | 原作・FA(2009年版) | 旧アニメ(2003年版) |
---|---|---|
正体・出自 | 「お父様」によって生み出された5番目のホムンクルス。 | エドとアルが人体錬成に失敗して生み出してしまった母トリシャの成れの果て。 |
能力 | 圧倒的な怪力と耐久力、そして「最速」の突進能力。 | 身体を自在に液体化させる能力。 |
性格 | 「めんどくせぇ」が口癖の、純粋な「怠惰」の化身。 | 母親としての記憶の断片を持ち、エドとアルに対して複雑な感情を抱く。 |
物語上の役割 | 「お父様」の計画のための労働力であり、強力な戦闘員。 | エルリック兄弟が背負う「罪」そのものを象徴する存在。 |
このように、同じ「スロウス」という名前でありながら、その正体から能力、物語における役割まで、全くの別人と言っていいほどの違いがあります。それぞれのバージョンのスロウスについて、さらに詳しく見ていきましょう。
原作・FA(2009年版)のスロウス:最速の「怠惰」
原作およびFAで描かれるスロウスは、その名に最も忠実な「怠惰」の化身です。
能力と戦闘スタイル
- 最速のホムンクルス: スロウスの真の能力は、その巨躯からは想像もつかない「超高速での突進」です。常人では目で捉えることすら不可能なスピードで突撃し、その圧倒的な質量で全てを粉砕します。本人も自らを「最速の人造人間」と称しています。
- 驚異的な怪力と耐久力: 戦車の砲撃を受けても傷一つつかないほどの頑強な肉体を持ち、単純な力比べでも他のキャラクターを圧倒します。
- 弱点: 彼の最大の武器である高速突進は、彼自身にもコントロールが不可能という致命的な弱点を抱えています。一度走り出すと自分の意思では止まれず、急な方向転換もできません。そのため、カウンター攻撃を受けやすいという側面も持っています。
物語における役割と印象的な最期
原作・FA版のスロウスは、「お父様」の壮大な計画である「国土錬成陣」を完成させるため、アメストリスの地下に巨大なトンネルを掘り続けるという、まさに「怠惰」とは真逆の労働を延々と強いられていました。
物語の終盤、ブリッグズ要塞での戦いで本格的に登場し、アームストロング少将やアームストロング少佐、そしてエルリック兄弟の師匠であるイズミ・カーティス夫妻と壮絶な死闘を繰り広げます。
激闘の末、ホムンクルスの核である賢者の石を使い果たし、消滅する間際に彼が遺した最期の言葉は、彼の本質を完璧に表していました。
「生きてんのも…死ぬのも…ああ…めんどくせぇ…」
生きることすら面倒だと感じていた彼にとって、死すらもまた、ただ面倒な現象の一つでしかなかったのです。このセリフは、ファンの間で「スロウス」というキャラクターを象徴する名言として語り継がれています。
旧アニメ(2003年版)のスロウス:兄弟が背負う「罪」の象徴
一方、2003年に放送された旧アニメ版のスロウスは、原作とは全く異なる、より悲劇的でドラマティックな存在として描かれています。
設定と能力
- エルリック兄弟の母親がベース: 旧アニメ版では、ホムンクルスは「人体錬成の失敗によって生まれる存在」とされています。スロウスは、幼いエルリック兄弟が亡き母トリシャを蘇らせようとして錬成に失敗した結果、生み出されてしまった存在です。
- 液体化能力: 彼女の主な能力は、身体を自在に水のような液体に変えることです。これにより、物理的な攻撃をほとんど無効化し、水中を自在に移動することができます。
- 弱点: 液体化能力を持つため、極端な低温や凍結に弱いという弱点を持っています。
物語における役割と悲劇的な結末
旧アニメ版のスロウスは、エルリック兄弟にとって、自らが犯した「禁忌の罪」そのものを象徴する存在として立ちはだかります。母親の姿をした敵と戦わなければならないという過酷な運命は、兄弟に深い葛藤と苦しみを与えました。
彼女自身も母親としての記憶の断片を持っており、エドとアルに対して複雑な感情を抱いています。最期は、同じくホムンクルスであるラース(エドの腕と足から生まれた存在)の裏切りによって倒されるという、非常に悲劇的な結末を迎えました。
この設定は、エルリック兄弟が自らの過去と決別し、前に進むための試練として、物語に大きな深みを与えました。
近年のゲームコラボでの「スロウス」
「鋼の錬金術師」は、近年でも様々なゲームとコラボレーションしており、そこでもスロウスは強敵として登場します。
例えば、人気スマートフォンゲーム「モンスターストライク」とのコラボでは、原作・FA版のスロウスがボスキャラクターとして登場しました。その性能は、原作での「最速のホムンクルス」という設定を反映し、高速での突進攻撃を必殺技(ストライクショット)として持っており、ゲームの中でもその強さを見せつけました。
「ハガレン」のスロウスに関するよくある質問
最後に、「鋼の錬金術師」のスロウスに関して、多くのファンが抱く疑問にQ&A形式でお答えします。
スロウスの原作と旧アニメの違いは何ですか?
最大の違いは、その正体と出自にあります。
原作および2009年版アニメ(FA)のスロウスは、「お父様」によって生み出された、純粋な「怠惰」を司るホムンクルスです。彼の能力は「最速の突進」であり、性格も全てを面倒に感じる無気力なものです。
一方、2003年版の旧アニメのスロウスは、エルリック兄弟が人体錬成に失敗して生み出してしまった「母親トリシャの成れの果て」です。兄弟の「罪」を象徴する存在であり、身体を液体化させる能力を持ちます。母親としての記憶の断片を持つため、兄弟に対して複雑な感情を抱いています。このように、同じ名前でも全く異なる背景と役割を持つキャラクターとして描かれています。
スロウスの最期のセリフは何ですか?
原作および2009年版アニメ(FA)における、スロウスの最期のセリフは「生きてんのも…死ぬのも…ああ…めんどくせぇ…」です。この一言は、彼の「怠惰」という本質を完璧に表現しており、ファンにとって非常に印象深い名言として知られています。生きることにも死ぬことにも執着せず、ただ面倒だと感じる彼のキャラクター性が凝縮されています。
スロウスの能力は何ですか?
原作および2009年版アニメ(FA)のスロウスの能力は、「最速の突進能力」と、その巨躯から繰り出される「圧倒的な怪力・耐久力」です。自らを「最速の人造人間」と称する通り、常人には認識不可能なスピードで突撃しますが、自分ではコントロールできないという弱点も持っています。
一方、2003年版の旧アニメのスロウスの能力は、「身体の液体化能力」です。これにより物理攻撃を無効化できますが、低温に弱いという弱点がありました。
まとめ
この記事では、「鋼の錬金術師」に登場するホムンクルス「スロウス」について、原作と2つのアニメシリーズでの違いを中心に詳しく解説しました。
- 原作・FA版のスロウス: 「お父様」によって作られた「怠惰」の化身。「最速」の能力を持ちながらも、全てを面倒に感じるキャラクター。最期は「死ぬのもめんどくせぇ」と言い残す。
- 旧アニメ版のスロウス: エルリック兄弟が錬成に失敗して生まれた「母親の成れの果て」。「罪」の象徴として兄弟の前に立ちはだかり、液体化能力を持つ。
- 共通点: どちらのバージョンも、単なる敵役ではなく、物語に深いテーマ性を与える重要なキャラクターとして描かれている。
「鋼の錬金術師」をこれから見る方、あるいはもう一度見返す方は、ぜひこの「スロウス」の違いにも注目してみてください。同じ名前のキャラクターが、異なる物語の中でどのような役割を果たし、どのような運命を辿るのか。その違いを知ることで、「鋼の錬-金術師」という作品が持つ、二つの異なる物語の奥深さを、より一層感じることができるでしょう。